満ちなければ欠けもしないのだと
思い立ったが吉日の手前にいて
月と肉と割れ目から触れる
微笑み以外で告げて
約束を破るように撫でてほしい
ひと筋じゃ足らなくなった
例えば今はそれはもういない
銀泥のような乱れ髪
くちびるに潜む三毒の刹那
むずかしい異称で呼ばないで
手触りの好い目眩
苔生すことない五指で云うな
行方知らずのまばたきたち
熔けるものが十全でも皆無でも
修羅めいた体温の淵を探る
この煙が晴れる頃には
目も耳も舌も尾も角も鱗も秒も
傷口のすべてが月の色
因果と応報のあいだで眠る
ささやかな汀を喉で飼い馴らす
どちらが天地か動乱か
もっと静かな場所までゆこう
甘くて苦いグリッチエフェクト
幽霊よりも信じられない
ア・ランプ・オブ・インフェルノ


餞ばかりを詰め込んだ匣
見ざる聞かざる喋らざるの情動
てのひらでは隠せない暗転
栗花落のにおいに膨らむ
間違いだらけの間近にいるから
一寸先は闇の中の鮮明
ほんとうはほんとうにほんとうの
三千世界の明滅をも嗄らす
おれがやわらかな墓であるように
砂漠の回廊で海を俟つ
須臾に窪むフィルムノワール
永遠に眇めている達磨
天辺についたまま消えない0と1
雨なんて降っていなかった
淡く幽かに解けない
透明な痛覚の中を游いでいる
花切り鋏の擬きたち
入り日の涯てを荒縄にして
Don't Stop Descode.
開かずの間のグラデーション
狂っているのは秒針だけ
思うにも思わぬにも寄り添おう
いつか腐るミルクパズル
胎内回帰に捧ぐ歯牙
蔓延る知らぬは仏か花か恥か


心臓と綯い交ぜの足音
泪じゃないものばかり溢るる
花のまぶたが迂腐を呼ぶ
土くれの下で蠢くカリグラフィー
悲鳴をなぞれば嬌声
揺れて群れて止め処ない額縁
夏のはじめに蔓延る鈍ら
あどけない落丁に気づかぬまま
水蒸気がかたちばかり謳う
それは気の触れた吉祥
一昨日のエンドロールを束ねて
猫の額に波羅蜜の不夜
年がら年中どこかで落花
欠けた真珠を孕むような
受肉したFly me to the moon
灰しか生めない銀鉤
夢とうつつを輪にして燃やす
いっそのこと蒼い朱殷
燦爛とした漆桶でくちづけて
遊糸に塗れた頚動脈
変容をやめた火と花の皮膜
繰り返さなかった永遠
やわらかにおぞましい悪癖
ドン・ペリニヨンに沈んだ九字
極彩色の死に水を噛み砕く


日当たりの悪い首筋に沿う
仄かな惨憺を弄ぶ
この世に限りあの世を千切った
愛も誠も転じて壺のうち
バタフライ・ザ・オーバードーズ
慈悲なんてみんな滅して
何者でもない瑞光
如実のための不実の果実
剥がれ落ちたサムシングブルー
うなじに光が憑いている
飛び散ったまんまの姿で呼んで
頬を濡らすピリオド
知っていることを知らない氷輪
ひとつの眼窩に数多の轍
傍らに美しい鬱陶
あなたの鼓膜に棲んでいる
逆さまの陰影と踊る
どろどろに滴るぬばたまの柩
青白い毛皮を纏う祈り
濁りを羽ぐくむための小夜
終わりなき純白の毒を齎す
朧に垂れる生き血の巣窟
手暗がりの祝祭日
おまえの御胸で粉々にされたい
もう一度はもう消えない




太刀 銘三条(名物荳画律譛亥ョ苓ソ)附 絲巻太刀拵鞘
2019.06.09 国宝指定記念日