午も鹿も噛み砕けばただの影
わたしを覆い隠すための五指
ハレでもケでもない灰となる
春へ生り損なった匣を抱いて
あどけない愁いを捉えて翫ぶ
喚いて吐いてぬばたまの蝶番
どんどろりんの間際に異称を
身に纏うすべてで射抜いてよ
柩と同義の十全に触れたなら
甜のあわいを崩して見咎めて
あなたのための小さすぎる火
これ以上ないほど毛羽立つ掌
額縁の裏側から微笑んでいる
麗らかにさんざめいた性感帯
臥いまろびどれほどに滲めど
引き千切られた四肢の行く末
おまえの胸が燃え尽きるまで
詠めずの竜田姫になりにけり
釘を打ち込むように蝕んでね
そもそもの煌めきが惨いのだ
暗くならないと始まらない光
熔けも解けもしない瑠璃の汀
心中じみた横顔を撫でたらば
同音異句の涯てに座している
今宵どうか窓際から動かずに

悪筆の鼓動を貪り合っている
おれのせいで欠けつづける項
覚え難きと忘れ難きの煉獄で
夜更けに散らばる遣る瀬無さ
不揃いの棘を埋め込んだ耳朶
まるで花がごとく頬をぶって
繊細からはほど遠い檻を飼う
あなたの肌膚の癖を知りたい
積み上げた歪を並々注げよ盃
蟄虫の戸を坏がせないまぶた
新月と上弦のあいだで帯びる
わたしの心臓よりもずっと嘘
どうしたって薄気味悪い謳歌
なにもかも濁すための極彩色
やさしく囁くしらばっくれる
でたらめに思い出せずにいた
騙くらかして誤魔化していて
うっそりと脈打つあおい煙よ
喜びも災いも膨らむばかりだ
白痴ぶれないところに佇んで
この目眩だけ剥がれ落ちない
傘なんて置きっぱなしでいい
彼方奥底の夜露を踏みしめて
きみは陽当たりの悪いさざ波
輪郭のない痛みで苛んでいて

ただひとつの映日果のにおい
五穀だけでは足りない神さま
血も肉も骨も霖の淵で彷徨う
舌の根が豺のように獣を祭る
永劫わからないままでいるわ
正しさとよく似て非なる白皙
引き裂いたような模様を注ぐ
なまぬるい呪いで埋め尽くす
見えぬところから灼いてゆく
冷たく煮えたぎる褥の化け物
数の合わない瑕疵で結ぶ佳宵
翅に透かして頭上へ降り頻る
針のような刹那をなぞれども
ぐちゃぐちゃに鳴らした繚乱
秋日陰で飾り立てた髪を喰う
聞き紛うはずもない萩の喉元
喜雨と鬼雨の狭間で羽化する
おなかなんてまるで空かない
物の音澄むほど眼前に潜みし
掻き毟れどもどうにもならん
命がけだからびしょ濡れなの
天も地も鏡越しには映らない
容赦なく引き摺ってやるから
蟲毒の冠を翳して恢恢の嫦娥
莫迦も莫迦なりに疼いている

闇に降るための闇が降る庭に
おまえの身のうち満つ潮の皹
どこにもゆえない夢を見せて
くちびるの隙間に潜む満天星
翳りのラブ・ミー・テンダー
いつかを忌日と掻くならば今
愛を海に喩えたやつを殺そう
かたちなき化身にくちづけを
垂れた雫を悲しみと云えるか
あなたの足音が白帝と化す夜
仔猫の皮膜のロックンロール
わたしたちはふしだらな砂漠
まだたったの欠片でしかない
その美しさで穢してほしくて
転じて抱きしめる傲慢な純白
やわらかに振り向かない透明
ぬつくと飛び出た白磁を潰す
泪よりもずっとか細く孕んだ
微かな絢を織り成す二百十日
深爪をしたシンリンガンリン
振り乱した隣を聴いていてよ
いたずらに逆再生して蜜と唾
不帰の指の先を擦って揉めば
名無くも秋闌きたる三三九度
ゆえにあなたを三日月と呼ぶ


2019.09.13
太刀 銘三条(名物三日月宗近)附 絲巻太刀拵鞘