୨୧ 秋の夜長

秋の夜長にて投稿したお題の一部まとめです。
どなたでもご利用いただけます。規約はガイドラインで提示しているものと同様です。


夢十夜長

駆けてゆく欠けてゆく懸けてゆく
吐息じゃないもの
薄く遠く鳴る頃に
ぜんぶ違う夜の中
ばら以外は頽れた
見えない場所からこぼれる子午線

最後にあったのは100年前
くちびるの端から端までの距離
花も嵐も堕落させたら
星よりもたしかに見える獣たち
光れないけどこわがらないで

いつもと違う幕が開くから
嘗めるための焔
しるしのない心臓の上を歩く

うずもれた薄い双眸
永遠じゃなくなる頃に振り向いて
はだしの終わりが喘ぐまで
この先は海この先は君この先は夢
明け星ばかりじゃつまらない

短い柩と逆しまの真円
欠けた御名の底にて燃ゆる
指先にあつめた明滅
自由なけものを殺した夜に
すべてのはじまりにわたしを透かして


鏡の中の夜長

無題という名を冠して
明日にも毒にも鳥にもなれないまま
おまえばかりが胸に挿さった
ぎざぎざした天国を告ぐ
鯨骨生物群集とかむずかしいはなしよりキス
心臓がゆえにではじまる五分前
わたしのすべてはあなただけのまぶたと同義

今夜じゃないと終われない
今夜が終われど終わらない

ためらいの薄片
天使によく似ているだけだよ
寒いから静かなの静かだから寒いの
けむくじゃらは微笑まない
きらきらの遺言

わたしにだけ掴めるプリズム
君だけが纏えるハレーション

やさしければ宵越しでもいい
摘める耳鳴り
燃えない幾星霜たち
それを潮騒と言うには少し
ただじっとしている雷鳴
粉々が離れたがらない
あなたの跡に目隠しのかけら

ほどけない透明
くちの中の人魚
木洩れ日ごっこ
瞬かない不文律
しろがねの末路
まぼろしへと繋がる前に
いつだって王子様は来ないけれども
いちばん細い骨をきみに捧ぐ

背表紙だけじゃつまんないから
いないいないばあの花束
怪物になることを愛と呼ぶ
明日なんて翻らないままでいい

映らないものぜんぶ欲しい
心臓よりもはやくおやすみ
うしろ手に足の無い幸福論
行き過ぎた思い出を撫でる

コケティッシュ・フェティッシュ
痛くも痒くもないまま踊りたがる
ああドントストップアポカリプス
言葉にできないところを蠢かせて
ここにいるからもう失わないでね
愛とは裏腹の午後四時四十四分に
ファーストキッスはレモンの反対

そぞろに歩くは薄ら氷の神さま
意味のない密度
ふたりのまぶたを殺して
わたしよりも脆いエンドロール
夢にも焦げつかない御胸
乱反射のルージュ
隠し持っていた夜霧が微笑む
ひと息で終わってしまう街並み

雨みたいに欹てて始まり
すこしだけ足りない肌膚
飛んで火に入る極楽浄土
おまじないが群れを成す
あなたのために疼く煌き
まばたきしてたら終わり

生え揃った透明
猥雑なカリグラフィーの吐息
叙情とかきっと伝言できないひとが考えた
見えないものは見えないまんまで
ブラック・バロック・アンド・ザ・シティ
けものの名残を見つけたり
差し込む朝日に佇む十指を呼んでいる

唱えてどこゆく唱えてきみゆく
どうしてひかりは濡れないのか
一瞬ばかりもなぞれない裸の淵
ぼやける前の愛を憶えていてね
流れ星も願い事もベッドの下に

逆さまで降り注ぐABCDEFG
フィルムノワールから摘んだHIJKLMN
永遠から最も遠い場所のOPQRSTU
指先に翳してはじめて明けるVWXYZ
ゴーリーもキャロルも砕いて混ぜた夜に


秋の夜逃

過ちの傍らにゆこう
キラキラのキマイラ
呪えばノーベンバー
読めない夜を撫でて
なまっちろい霖の中
ガールミーツ小火騒
人間をやめた海岸線
宵越しの五指に告ぐ
滲むまで呼んでいて
幻想と喧嘩している

さざ波の後ろに座して
舌の根にこびりつく光
天も地も意外と近しい
ふわふわしたリアンユ
鼻先から離れぬ幾何学

ぼくらにちょうどよい光さえぐちゃぐちゃにして

相槌さえ逃げる秋だから
蓋然性の酩酊
きみはぼくのぬばたま
わからないことだけが濡れて
五指を失う頃に
あどけなくあらましき報復

アホみたいなこと言いなや
夜よか暗いとこ知っとるか
どないもこないもなる前に
見えん見えんけど見えとる
満ちんでええから欠けんで
まだ朝ちゃうよって言って

眼前にいる涯て
てのひらの中のわずらい
きみの海を踏みしめた
どっか行くのどっこも行けんのに
ミューテッド・ミュータント

おまえ
枯れ枝の冠
灰色に透ける
美しくない塊り
古ぼけた血肉
横顔に這う
あなた